はじめに
これから、兵庫県の斎藤元彦知事が語ってきた「公益通報者保護法」をめぐる判断。その時間軸をたどっていきます。
はじめに申したいのは、芦屋市議である私が、なぜこのテーマを取り上げるのか。そう思われる方もいるかもしれません。もちろん、自分自身のためでもあることは否定しません。しかし、それ以上に、家族のため、広く言って兵庫県に住むすべての県民の皆様、つまりは、市民のためにつながる問題だと考えているからです。
正直いって、兵庫県知事選移行、今も兵庫県政は混乱していると言ってもいい状況です。しかし、多くの方がそれに気づかないで静かに生活されているかと思います。私は、「事実ではない情報が広まり、既成事実のように扱われてしまう」というような状況が目の前にあれば、どうしても見過ごすことができないのです。
それはなぜか?
その思いの原点は、私自身が悔しい思いをした実体験にあります。私が市議になったきっかけは、芦屋市議らの発信によって、事実に基づかない情報が市内に広まり、その結果、私の住む地域の問題が十分に議論されないまま結論付けられ、進められてしまった経験でした。その状況は、住民である私たちの知らないところで作られ、結果だけが示され、気づいた時には従うしかない状態になっていました。
「まちの将来」を決めた市民の代表は、実際にその町で生活する人たちではありませんでした。本来、多くの住民が持っていた希望や声も、十分に聞かれることはありませんでした。それに気づいた時には、すでに遅かったのです。
その後、私は自治会長になり、市役所とのやり取りが増えました。そして、その経験の延長線上に、今の議員としての選択があったわけです。自ら同じ舞台に立ち、表に上がっていない埋もれた声に光を当てるために。世の中の理不尽さをなくしたいのです。だからこそ、兵庫県の斎藤元彦知事をめぐり、県民を惑わせる騒動の中で、「事実ではない情報が覆いかぶさる状況」が過去の経験と重なり、私は何もせずにはいられなくなるのです。
「人の数ほど真実がある」と言われることがあります。けれど、ひとつしかない事実に基づく判断から“真実”にたどり着くために必要なことは、実はとてもシンプルなのです。それは、「何が、いつ、どのように起きてきたのか」を、時系列をもって整理し、その事実関係を時間軸に沿って並べること。そして、その上で冷静に判断することです。
事実を丁寧に拾っていけば、自分の頭で考える人ほど、その評価は自ずと見えてくる。不審な点や矛盾は、誰かが声を荒らげなくても浮かび上がり、感情に左右されず状況を的確に判断できる人であれば、何が事実で、何がそうでないのかも、スーッと自分の中で入りこんでくるものですからね。
さて、この騒動は、いつ始まったのか
私がこれから示す「兵庫県問題」とは、2024年3月12日頃、元西播磨県民局長が、兵庫県知事である 斎藤元彦氏および県幹部らの行為について、パワハラなどを告発する文書を作成し、兵庫県警、国会議員、兵庫県議会議員、報道各社など、計10か所に匿名で送付したことを発端として生じた一連の出来事を指します。その後の、経過は以下です。
👉️3月15日:兵庫県警が上記文書を受理。(5ヶ月後の8月20日の県議会で明らかとなった)
👉️3月20日:斎藤知事は、告発文書の存在を民間人からの情報提供によりデータで受け取った。(同年6月の百条委員会期間中に、斎藤知事が陳述している)
👉️3月21日:斎藤知事が、「徹底的に調べろ」と元片山副知事に指示をし内部調査が開始。
👉️3月25日:元片山副知事らは事前連絡せずに、元局長を訪れ、使用していた公用パソコンを持ち帰った上で聴取を行い、懲戒処分を見据えた退職取り消しの人事処分を内示した。
ここまでを整理すると、斎藤知事が告発文書の内容を把握してから、告発者を特定し、人事処分されるまで、わずか5日間しか経っていません。通常の調査や判断の過程と比べると、極めて短期間での調査と決定だったことがわかりますよね。
では、この間に、告発文書の内容が事実かどうかを確かめる客観的な調査は行われていたのでしょうか。答えは「NOです。」時系列を見る限り、文書を確認した知事の判断のみで「真実相当性がない」と1日の間に結論づけられたことで、文書の作成者を特定する方向へと動いたことになります。
この日まで、県民である私たちには、こうした一連の状況についての情報はどこにも公開されていませんでした。
告発文書が広まった始まりは、知事の記者会見
この対応をめぐり、兵庫県問題は、県が当該文書をどのように受け取り、どのように扱い、どのような処分を行ったのかという点が問われ、公益通報者保護法との関係を含め、県政全体を巻き込む大きな議論へと発展していきました。
では、この問題を兵庫県民は、いつ知ることになったのでしょうか。これは、いつの間にか広まった噂話でも、出どころの分からない話が自然発生的に浮上したものでもありません。不特定多数に目的も責任の所在も不明な怪文書が、ばらまかれたことで知った話でもありません。
思い出してみてください。斎藤元彦知事のハラスメント疑惑や、おねだり疑惑などが、マスコミで大きく取り上げられる以前に、何が行われていたのか。
すべての始まりは、2024年3月27日に斎藤元彦知事が行った記者会見でした。つまり、元局長の人事処分の内示があった2日後の記者会見での、斎藤知事の発言によって、私たちは初めて、「兵庫県に、県職員から“内部告発の文書”が届いていた」という事実を公に知ることになりました。その時の様子がわかる動画がありました。
ご覧いただいきたいのは、31分35秒の記者の質問から始まる知事の回答です。それまでは、当該文書は、いわゆる「2号」「3号」とされる外部通報先に届けられていたものであり、公益通報者保護法の規定により、守秘義務の対象とされていました。そのため、関係者の間においても、真実相当性が確認される前に、「文書が届いている」という事実そのものが明かされたり、通報者を特定したり、公表することはしません。これが、この制度が法律上、前提としている考え方だからです。
にもかかわらず兵庫県は、本来外部通報先にのみ送付されていたはずの文書を入手し、告発者が県に内部通報を行った事実がないにもかかわらず、体制整備義務を無視して通報者を保護することなく、調査を進めました。しかも、その調査は、告発内容の検証ではなく、告発者の主張とは異なる意図のもとで進められていました。
さらに、その一連の判断が、告発の対象となっていた当事者である”知事自身”の判断によって不当なものであると決定づけられ、処分の発表という形で広く知らしめられました。このあたりを境に、一部の間で「兵庫県の見解はおかしいのではないか」という疑義が浮上していきました。
つまり、斎藤知事自身が、この問題を公に広める結果を招いたのです。
「人事担当の片山副知事と相談しながら対応した」は、おかしい
実は、この3月27日の記者会見で、斎藤知事はかなり不明確な発言をしているんですよね。
記者から、退職するはずだった西播磨県民局長が退職保留となった理由について問われた際、斎藤知事は「片山副知事と相談しながら対応した」と説明しました。しかし、実際の初動では、片山副知事は、斎藤知事から一方的に文書の作成者を調査するよう指示を受けていましたよね。
そもそも、文章を見て「事実無根の内容が多く含まれ、ありもしないことを作った」と判断したのは斎藤知事本人でした。その行為が処分対象に当たると考えたからこそ、知事として徹底的な調査を指示した経緯がありました。実務にあたったのが、片山副知事であったとしても、調査を行うよう対応させるという判断は、斎藤知事一人によるものでした。
そして、もうひとつのおかしな点は、どうして片山副知事の名前が真っ先に出てきているのでしょうか。副知事とは、本来、知事を補佐する立場にあります。制度上、「副知事が人事担当」という資格や役職が定められているわけではありません。これは、兵庫県だけに限った話ではないです。
人事案件の所管は、あくまで総務部長および人事課にあります。そうした制度的な整理を踏まえると、副知事が「人事担当」として語られている点については、その役割との間に違和感があります。
事実無根の文章を作ったと、ご本人は認めていません
斎藤知事は、事実無根の文章を作ったということを「ご本人も認めている」と言いました。でも、ご本人の抗議文によると、事実無根の文章を作成したとは認めてはいません。(画像はクリックすると拡大します。)
告発文書を作成したのが、元局長であったこと自体は事実であり、その点を認めたというのであれば理解できます。しかし、それをもって、枕言葉の「事実無根」まで認めたことにはなりません。伝え方ひとつで、その意味は大きく変わってきますよね。つまり、元局長の中では「嘘の話ではない」という認識だったのです。斎藤知事は、「嘘八百含めて文章をつくって流すっていう行為は、公務員として失格。」とも付け加えました。
しかし、ここまでの段階で、兵庫県は、この文章の中身に真実相当性があるかどうか、正式に調べることはしていません、ただ、この文章を作成した人物を特定したに過ぎません。「職務中に事実無根の文章を流すとは何事だ!」とその行為を、「公務員失格」として、処分をしたわけです。
「退職保留」とは、元局長が兵庫県の管轄下にとどまり、知事の権限から外れない状態を意味します。仮に退職が成立していれば、処分の対象とすることはできません。実際には、再就職先も決まっていたにもかかわらず、それが取り消される結果となりました。
懲戒処分等において、ここまで具体的に首長自らが前面に立ち、感情的とも受け取られる形で人格を否定する発言を行う例は、あまり聞いたことがありません。通常であれば、どれほどの事案であっても、人権への配慮が優先されるはずです。のちにこれが「公開パワハラだ」と指摘されるようになったのも、わかる気がします。言ってみれば、よほどの恨みすら感じられるからです。
なぜ斎藤知事は、急ぎ足でここまで強い態度を取ったのでしょうか。仮に内容が事実でなければ、公に大きく取り上げる必要もなく、静観することもできたはずです。仮に怪文書であろうが、事実無根であるなら、堂々としていればよい話です。他者を嘘で貶めることは、よほどの条件がそろわなければ簡単に成立するものではありませんからね。
内部告発をしたら、「公務員失格」とまるで犯罪者のように扱うの?
この斎藤知事の記者会見での発表を境に、記者の多くは、懲戒処分そのものよりも「異例の解任劇」に強い違和感を覚え、その点に焦点を当てた記事を掲載していったのではないでしょうか。結果として、報道の方向性は、斎藤知事の思惑とはやや異なるものになっていった可能性があります。
本来であれば、「懲戒処分を受けた職員」に注目が集まり、「文書を出した側が悪い」という構図になっても不思議ではありません。しかし、これまでの経過を見れば、兵庫県が「告発者潰しを行った」と受け取られても仕方がない行動を取ってきたように映っています。というのも、告発文書が調査されれば、斎藤知事の評価を下げかねない、不都合な事実が証明されてしまう内容が含まれていたからです。
次第に、県庁の内外から「一体、何が起きているのか」という声が大きくなっていきました。そして4月1日、元局長は、斎藤知事の記者会見に対する反論文を報道機関に送付したとみられます。この反論文を受け、各社が相次いで報道するようになりました。この頃から、斎藤知事は「告発者潰しを行っていたのではないか」、ひいては「公益通報者保護法違反に当たるのではないか」という疑念がますます広がり、波紋を呼んでいったのです。
仮に、記者会見で斎藤知事があのような発言をしていなければ、ここまで強く責任を問われる流れが生まれることはなかったのではないでしょうか。そう考えると、この一連の事態は、やはり斎藤知事自ら招いた側面が大きいと言えるのではないでしょうか。
しかも、嘘八百等の発言には、根拠となる公文書が存在していないのです。要するに、知事の思い込みで伝えた言葉を、私たちは記者会見で聞かされたに過ぎません。公文書公開請求をされた方がいました。
兵庫県議会から提出された「不信任案決議」の可決
ここまでの流れがあって、兵庫県議会からも不信任決議案が出されるという経緯があったのですが、この議案は、全会一致(賛成86・反対0)で可決されていきます。兵庫県議会の中で誰一人も「反対する人はいなかった」という結果となりました。
県民と、その暮らしを支える行政職員を、不当な扱いから守ることも、県議会議員の重要な責務です。この不信任案は、感情的な対立によるものではなく、知事としての判断と対応の妥当性が問われた結果でした。
告発文書をめぐり、知事自らが内容を「事実無根」と断定し、当事者でありながら調査と処分を主導したことは、行政の公平性を大きく損なうものでした。さらに、異例の退職保留や強い言葉による公的な人格否定は、「告発者潰し」と受け取られても否定できない対応でした。
しかし、斎藤知事に改まる様子や事態を沈静化させる措置は見られず、県民および県職員からの信頼回復が見込めない状況にありました。こうした経過を踏まえれば、不信任案は県政の信頼を守るための、合理的で妥当な判断だったと言えます。この後、斎藤知事は辞職し、2024年11月に兵庫県知事選挙が行われました。
再選後に始まった「本当の検証」
再選後もなお、公益通報者保護法をめぐる問題は終わっていませんでした。告発文書の中身に関する調査が、完全に終わっていたわけではないからです。つまり、兵庫県の対応について「潔白が証明された」と言える状況ではありません。むしろ、知事に返り咲いたからこそ、これまで以上に説明責任が問われて当然な状況だと言えます。
この問題をめぐって、県民の分断を引き起こす形で、長く議論の対象となってきました。元局長が懲戒処分になった理由ですが、はっきり言ってしまえば、仕事中の隙間時間に私的な文章を作成している職員は、他にもいると考えられるのではないでしょうか。明確なダメだというルールもありません。その行為だけを根拠に、重い懲戒処分が科されるケースは、通常は考えにくく、せいぜい見つかっても注意や指導にとどまるのが一般的です。
しかし、斎藤知事はその行動に加えて、当該文章を「事実無根である」と判断し、懲戒処分の中でも、重い停職3ヶ月という対応を選択しました。それにしても、その文書の内容は、結果的に県庁運営や組織のあり方について改善を求める職場に関するものであったことから、完全に業務と無関係ではなかったとも言い切れないと思われます。
また、一部の内容について立花孝志氏が、「嘘でした」と認めた元局長の私的文書をめぐっては、私物のUSBメモリが回収されたもので、当該ファイルが「公用PCで作成された」と技術的に断定する検証もなく、県から明確な説明がなされたとは言えない状況のままです。たとえ断定できたとしても、そのことで処分理由の「事実無根の文章を書いた」と証明されるわけではありません。
このように、事実関係が十分に確認や説明がされていない中で、公益通報者保護法の違反にあたるかによっては、懲戒処分をした判断の妥当性については、改めて検証されなければいけないということです。だから、斎藤知事は再選したからといって、これが「解決した」というわけではない状況です。
この判断に、もし誤りがあったのであれば、県政のトップとして、明らかにバランスを欠いたものであり、訂正されないといけない問題です。しかしながら、こうした点を問い詰める記者の質問に対して、斎藤知事は、公益通報者保護法の取り扱いについて、次々と外部の判断に目を向かせていきました。
兵庫県知事選挙の中でどんなことが起きていたかという、その様子については、別のテーマのブログで詳しく述べています。事前に経緯を把握しておきたい方は、先に下の記事もご覧ください。
👉️たかおか知子HP『こんなのまともな知事選挙じゃない!!」今だから語る、あの時感じた“異常な選挙”の心境』
読み終えたら、またこの続き【#2】に戻ってきてくださいね。ここからが本題です。つづく…















