■ 弁護士の見解と対応の選択
私は第三者の弁護士にこの報告書を見てもらい、率直な意見を求めました。その弁護士は「思うところはある」と前置きしたうえで、次のような趣旨の話をしてくれました。
地方議会の中で起きている問題は、必ずしもすぐに司法で争うような性質のものばかりではなく、地方議会には、地方自治法という枠組みの中で、自ら是正していくべき自治の仕組みがあります。
その観点から見ると、この問題は裁判で争うというよりも、議員として議会の中で対応していく問題ではないかという指摘でした。また、この一連の出来事の中には、人権を阻害していると考えられる部分があるとも指摘されました。
そして弁護士は、こう言いました。
「どうしても納得できない、明らかにおかしい部分があるのであれば、これは議会の中で向き合うべき問題ではないでしょうか。」
この助言を受け、ある議員の発言に対する抗議文を提出する方向で、弁護士と連名で書面を作成しました。
■ 直接交渉ではなく、相談員を通す判断
最初、弁護士は直接的にその議員に対して抗議する方法を提案していました。問題と指摘する発言について、議事録の削除や謝罪を求めるというものです。
しかし私は、その方法をすぐには選びませんでした。直接交渉するよりも、第三者を通した方が理解が進むのではないかと考えたためです。
これまで直接話しても、要望が十分に伝わらなかった相手であったという事情もあったのかもしれません。
そこで私は、議会のハラスメント指針に基づき、相談員を通して伝える方法を選びました。議員ハラスメント相談員は1年交代で任命されます。
相談員の2人の女性議員は親身に話を聞いてくださり、その対応自体は誠実なものでした。しかし、最終的な判断の段階で、状況は別の方向へと進んでいきました。
当時の議長は、問題となっている発言をした議員と同じ会派でした。最終的には、相談員と協議した方針に基づき、議長へ申し入れる対応をとることにしました。
■ 法律の意味を十分に理解しないまま用いられた発言
今回の問題は、シンプルに言えば次のような構図です。
私が第三者調査で提出した音声データは、議会で実際に行われたやり取りの中から、問題となる発言部分を抜き出したものでした。これは、事実関係をより簡潔に理解してもらうために行ったものです。
しかし、この行為について、討論の中で刑法に触れる発言を行った議員がいました。つまり、「一部を切り取って提出したこと=違法の可能性がある」という印象を与える形で指摘されたということです。
ずばり、刑法の適用に関する誤用発言をしていたというわけです。その議員が討論の中で用いた 👉️刑法第161条の2 は、人の事務処理を誤らせる目的で、存在しないデータを作り出したり、権限なくデータを書き換えるなどの行為を対象とするものです。
たとえば、他人のクレジットカード情報を不正に作り出して決済に利用したり、システム上のデータを書き換えて金銭処理を誤らせるといった、コンピュータやデータを不正に操作し、財産や権利に影響を与える重大な犯罪が典型です。
しかし今回のケースは、実際に存在する音声の中から問題となる部分を抜き出して提出したものであり、この条文が想定する行為とは性質がまったく異なります。
そもそも、前提となる状況自体が成立していません。現実にはあり得ない前提に基づいて発言している点が問題です。それは、まだ椅子に座ることもできない赤ちゃんに対して、「無免許運転をしたおそれがある」と言っているようなものです。
たとえ「可能性」や「おそれ」といった表現で断定を避けていたとしても、仮定としてですら成立するものではありません。この点については、私の弁護士は強く問題があるとの見解を示しています。
それほどまでに、前提を欠いた現実にはあり得ない内容であり、恥ずかしいものを述べているにすぎません。
このように、報告書の内容や事情を十分に理解しないまま過剰に反応した発言がなされた結果、法の趣旨と明らかに異なる刑法を引用したことにより、私があたかも違法行為を行ったかのような誤解を招き、名誉を損なう内容となりました。私の弁護士からも「刑法の趣旨を誤って用いた、行き過ぎた発言である」というような指摘を受ける事態に至ったものと考えています。
また、問題提起している理由は、これが議会という公の場で、討論という正式な手続の中で行われた発言であるという点です。議会での発言は大きな影響力を持ちます。議員であればなおのこと、事実関係や法的解釈については、より慎重であることが求められます。それにもかかわらず、いたずらに刑法を口にし、人を貶めるために用いられた発言だけが、議事録として残り続けています。
私は、この問題は個人にとどまるものではなく、議員による法の誤用という点で、議会全体の信頼にも関わる問題であると捉えています。
■ 萎縮効果というもう一つの問題
そしてもう一つ見過ごせないのは、このような発言が与える影響です。
ハラスメントの被害を訴えるために証拠を提出した側が、その行為を理由に違法性を疑われるような扱いを受けるのであれば、今後、同様の被害を受けた人が声を上げることをためらうことにつながりかねません。
つまり、問題を指摘した側が不利益を受ける構図が生まれてしまうという点で、萎縮効果を生むおそれがあります。
こうした状況は、本来守られるべき通報や問題提起の機会そのものを弱めることになり、結果として組織の健全性を損なうことにもつながります。
つまり今回の本質は、私個人への対応の問題にとどまるものではなく、事実に基づかない形で刑法まで持ち出され、誤った印象を与える発言がなされたことにより、「権力に楯突くと不利益を受けるのではないか」という受け止めにつながり、同様の立場にある通報者を萎縮させている点にあります。
■ 議長への申し入れと求めた対応
私は令和6年5月29日に申し入れを帰山議長へ提出しました。
👉️『0529議員発言に関する法的確認と名誉回復の申し入れ』
この申し入れは、私が刑法犯であるかのような印象を与える発言がなされたことについて、その内容の確認と是正を求めたものです。具体的には、該当する発言が議事録に残っていることから、
・議事録の修正
・発言内容の事実関係の確認(聞き取り)
・発言が法的に正しいとするのであれば、その根拠の提示
あわせて、私の行為が刑法に該当するものではないことを示したうえで、当該発言が名誉を損なうものであること、さらにこのような発言がハラスメント被害の申告を萎縮させるおそれがある点についても指摘しました。
また、👉️議員必携 における規定では、議会での発言に不適切な内容があった場合、「発言の取消し又は訂正」が認められる制度があり、本来は適切な対応が求められるものとされています。
■ 放置されている問題提起への割り切れない思い
帰山議長の見解は、この件は議会では受け入れられないというものでした。当然、本人への聞き取りや詳細な確認が行われた様子もありませんでした。
示された理由は、
・前期の中での話である
・発言から1年以上が経過している
・なぜその時に指摘しなかったのか
・問題ないとする弁護士もいる
といった見解を口頭で示されました。私は、法的な観点から発言の誤りを示している以上、その発言が正当である理由も説明してほしいと求めました。
しかし、最終的には「双方に見解がある」という整理にとどまり、明確な判断は示されませんでした。私側の弁護士は理由や根拠を具体的に示していましたが、それに対して議長側の見解としての明確な説明が示されることはありませんでした。
返ってきた言葉は、「それは司法で判断することではないか」というものでした。こうして、議会としてこの問題に向き合う姿勢は示されませんでした。
そしてもう一つ、私の中でどうしても割り切れない思いがあります。それは、私の人権が侵害されている可能性があるにもかかわらず、この発言をした議員にはその状況が十分に伝えられず、何事もなかったかのように扱われていることです。
悪意の有無は分かりません。しかし、事実と異なる発言によって名誉が損なわれている可能性があるにもかかわらず、それが議会の中で整理されないまま残っている。その状況を、私は受け入れることができずにいました。










